妖狐の約束は月の光と共に 番外編 2 

その2

一方由美の方はというと、

おりゃ――!!

雪の家では枕投げが行われていた。由美は枕投げに参加したくないため、雪とこっそり部屋の隅に逃げていた。

「枕投げも派手にやるんだね・・・・」

由美はその光景に圧倒されながら言った。雪は由美の膝の上に座り、コクリ頷いた。

「あっ!由美危ねー!」

釧濫が気付いた頃には、由美の顔面に枕が直撃した。

「・・・・なにするのよ!!」

由美は雪を膝から下ろし、由美の顔に当たった枕を掴み、勢い良く投げつけた。枕はそのまま火蔭に直撃した。

「いって―――!!やりやがったな――――!!」

結局由美も枕投げに参加し、雪の母親が来るまで続いたのだった。

 

 

 吹雪は収まり始めた真夜中、夜空には月が上品に輝いていた。由美はこっそり寝室から抜け出し、縁側に座り、月を眺めていた。

「結局なんにも説明受けてないな~。でも、みんな良い子だよなぁ~」

由美はポツリと言った。すると、

「おまえは運がいいな」

突然声を掛けられ、ゆっくりと後ろを振り返った。そこには、悠也と夜光が居た。

「あっ、あの時の・・・・」

由美はあの時の事故を思い出した。思い出しただけでも、身震いがした。悠也は由美の側に行き、由美の隣に座った。暗くてよく見えなかった彼の姿に、由美はドキッとした。

「済まない。俺の所為でこんな世界に飛ばして・・・・」

悠也は申し訳ない顔で言った。由美は首を思いっきり横に振った。

「い、いいえ!こ、この世界はす、素敵ですよ!こんなに良い子達が、た、たくさん、い、居るんですから!」

(わぁ~!!私何言ってるんだろう!!)

由美は顔を真っ赤にして答えた。そんな由美の様子に、悠也は笑いを堪え切れなかった。

「ぷっ!あはははは!!君は面白いな!」

悠也の笑顔にまたドキッとし、由美の顔は更に真っ赤になった。

「もう!笑わないで下さい!!」

「あはは!悪かった。許してくれ」

悠也は涙目になりながらも、由美に謝った。

「おーい。俺の存在忘れてねーか?」

夜光は悠也の隣から顔を覗かせた。

「俺は忘れてないぜ。夜光」

悠也はニヤリと、笑みを浮かべながら言った。その後、簡単な自己紹介をした後、由美は悠也と夜光にいろいろ質問をした。

 

 この世界は妖怪達の住む世界、『妖魔界(ようまかい)』。

 人間は本来この世界の妖怪達には、敵と見なされている事。

  そして、由美がなぜこの世界に飛ばされたのかになった。

 

「由美は夜光や子供達が見えるよな?」

「うん。バッチリと」

悠也は夜光を指を指しながら言った。

「本来は、普通の人には妖怪の姿は見えないんだ」

「・・・・えっ?」

由美は呆気に取られた。でもここで一つの疑問が浮かんだ。

「じゃぁ、どうして悠也さんも見えているの?」

夜光はニヤリと笑って言った。

「悠也には普通の人間にはない、特殊な力を受け継いでいるからな。だが由美のように、見えるやつが突然現れる事もある。まぁ~かなり希な事だがな」

由美は悠也を見た。

「その~見える事と、どのような関係が?」

「あの事故の時、夜光が使った技は、時間を止める技だったんだ」

由美は目を丸くした。

「時間を!?」

悠也は頷いた。

「夜光くらいの大妖怪じゃないと、使えない技なんだが、あの技を使うとこれも希なんだが、由美のような人はその技が発動する時の時空の歪みに、魂だけ飛ばされる事があるんだ」

由美は頭で少しずつ整理をしていった。

「要は、時空の歪みで魂だけ飛んで・・・・・だけ!!

由美は顔を真っ青にした。魂だけという事は、自分の体をほったらかしにしている事になる。

「大丈夫だ。今由美の体は、病院でちゃんと手当をうけてるから」

悠也は冷静に答えた。

「本当!?よかった~」

由美は安堵の表情になった。

「で、今すぐにでも元の世界に帰れるけど、どうする?」

「あっ・・・・・そっかぁー・・・・・」

由美は悩んだ。このまま火蔭達と居たいという思いと、両親や友達の事とか様々の思いが溢れた。

「・・・・・明日じゃ駄目ですか?このままお別れせずに帰るのは、嫌です・・・・」

由美は自分の思いを言った。

「・・・・分かった。明日また来る」

悠也は夜光に乗って、何処へ飛んで行った。

 

 

 次の日。朝日が寝室に差し込み、雪は眩しさに目を覚ました。雪は上半身を起こすと、隣では由美が寝息を立てていた。雪は由美の肩を揺らした。

「う~ん・・・・・朝?」

由美は目が覚め辺りを見渡すと、由美の顔を覗く雪が居た。

「雪ちゃんおはよう」

由美は伸びをし、雪と一緒に洗面所に向かった。由美は雪から歯ブラシを借り、歯磨きをした。

(お別れ、言いづらいなぁ~)

由美は歯磨きをしながら、いつ言えば良いのか悩んでいた。歯磨きを終え、服に着替えると、他のメンバーが寝室から出て来た。朝食を終え、全員で外に出た。

 

 

 外に出ると、そこは一面の銀世界だった。朝日に照らされた雪は、より一層輝きを放っていた。火蔭達は早速さらさらとした雪を掴み、雪合戦を始めた。

「朝から元気だなぁ~」

由美は縁側に座って、雪合戦を観戦していた。雪は由美の膝の上にちょこんと座っていた。

「はぁ~・・・・・どうしよう・・・・・」

長居は出来ない事は自覚しているが、中々お別れの話しをする勇気は持って居ない自分に、由美はもどかしさを感じていた。雪合戦をしていた釧濫は、由美が参加していない事に気が付いた。釧濫は投げるのを止め、由美の側にやって来た。

「どうしたんだ?朝から溜め息付いてよ」

由美は少し間を置いてから言った。

「私ね・・・・・もう帰らないといけないんだ・・・・」

由美は小さな声で言った。

「えっ!?」

釧濫はあまりにも突然の宣告に、大声で叫んだ。釧濫の声を聞いたメンバーは、由美の近くに集まった。

「どうしたんだ釧濫?」

蓮蘭は釧濫に訪ねた。

「由美、今日帰るんだってよ・・・・」

泣きそうな顔で釧濫は言った。

嘘!!??

釧濫以外のメンバーが、一斉に叫んだ。

「なんで!?もっとここに居てよ!!」

柚汰は由美の服の袖を掴んで、今にも泣き出しそうな顔で駄々をこねた。柚汰の後に、次から次へと由美の服の袖を掴んで、必死にお願いして来た。由美は泣くのを我慢しながら言った。

「ごめんね。私ね、お母さんとお父さんが、私の帰りを待ってるの。本当はもっとみんなと一緒に居たいけど・・・・・これ以上両親に、迷惑を掛けたくないから・・・・」

由美の目から涙が溢れ、止まらなくなっていた。すると、ある事を思い付いた。由美は雪の方を見て言った。

「雪ちゃん、ポケットの中の物出してくれる?」

雪は由美の膝から降り、ポケットの中を探った。中にあった物を掴み手を出すと、手には由美の携帯が出て来た。

「みんな、ちょっと手を離してくれるかな?」

服の袖を強く握っていた、火蔭達は手を離した。由美は携帯を開き、カメラモードにした。

「それはなんだ由美?」

火蔭は見た事のない携帯を、ジーと観察しながら言った。他のメンバーも興味津々だった。

「これはね、携帯電話っていう物なんだよ。誰かと連絡をしたり、写メを撮って保存したり、友達にメールで送ったり、いろいろ便利な物だよ」

へーと火蔭達は感心した。

「写メって、写真の事か?」

白陽は由美に質問をした。

「うん。そんな感じかな」

由美は庭の真ん中に移動し、インカメラモードに設定をした。

「こうやって写真を撮れば、この携帯に残るの。そしたら、私はいつでもみんなの事を、思い出せるから。みんな、協力してくれる?」

由美は火蔭達の様子を見ながら言った。すると、火蔭達の顔が明るくなり、一斉に由美の所に集まった。

「写真を撮るなら、ここが良くね?」

蓮蘭は雪が作った雪だるまを指指した。由美は雪だるまが入る位置に移動し、みんなは好きなポーズをした。

「撮りまーす。はい、チーズ!」

由美は携帯のシャッターを押した。

 

 

「悠也、本当によかったのか?」

悠也を背に乗せ、夜空を飛ぶ夜光は言った。

「仕方がないだろ。由美の両親が心配してる・・・・」

悠也は月を眺めながら答えた。夜光はふと思った事を質問した。

「・・・・・なぁー悠也」

「なんだ夜光」

「おまえ由美の事、好きなのか?」

「なっ!?」

悠也は突然の質問に、夜光から危うく落ちそうになった。夜光は悠也の反応を見て、ニヤリと笑った。

「そんな訳ないだろ!第一、俺と由美は歳が離れてるだろ!」

悠也は早口に反論をしたが、顔は真っ赤になっていた。

「けっ!全然説得力ねーぞ」

夜光は悠也の反応を楽しんでいた。

「うるせー!てか、もう見えて来たぞ」

二人が会話をしている内に、雪の家の庭に辿り着いた。縁側には昨夜と同じように、由美が一人座っていた。

「あっ、悠也さん、夜光さん」

由美は二人に気付き、近くまで小走りでやって来た。

「もうお別れは済んだか?」

悠也は由美に気を遣いながら聞いた。

「はい。ちゃんとしました」

由美は笑顔で答えた。

「そうか・・・・」

悠也は由美の笑顔を見て、ほっと安心した。

「あのー、一カ所飛んで欲しい所があるんですが・・・・いいですか?」

由美は夜光の方を見て言った。

「いいぜ別に。飛んでやるぜ。場所は何処だ?」

夜光はニヤリと笑った。

「えっと、場所は・・・・・」

 

 

 悠也・由美の二人を乗せ、夜光は夜空を飛んでいた。夜光がちょうど由美の指定した場所を、飛んでいる時だった。

「由美!あれ!」

悠也が指を指したその先には・・・・・

 

『由美!ありがとう!楽しかったよ!』

 

由美が火蔭達と雪合戦をした広場に、文字が書かれていた。火蔭達はその文字の側で、由美に向かって手を振っていた。昨夜は雪が偶然、悠也と夜光を見ていたのだった。雪の話しを聞いた白陽が、文字を書くことを提案した。

「ありがとうな!由美!」

「俺達の事、忘れんなよ!」

「由美!元気でなー!」

「また、遊ぼーね!」

「元気でな!」

「お元気で~」

釧濫・火蔭・蓮蘭・柚汰・白陽・天は手を振りながら、大声で言った。雪も精一杯手を振っていた。

 

「ありがとう・・・・みんな・・・・・」

由美は涙を流しながら、精一杯火蔭達に手を振った。

 

 

 暫く飛んで行くと、霧の立ちこめた森に入って行った。

「由美。俺の手を離しちゃ駄目だぞ」

悠也は由美の手を握り、強い口調で言った。

「はっ、はい!」

由美はドキドキしながらも、悠也の手をしっかり握った。

「行くぜ!振り落とされるなよ!」

夜光は飛ぶスピードを上げ、術を発動した。三人は青白い炎に包まれ、炎と共に消えた。

 

*   *   *

 

 朝を迎え、病室に朝日が差し込んで来た。由美は眩しさでゆっくりと目を開けた。辺りを見渡すと、由美の手を握っている由美の母親が居た。

「お・・・・かあ・・・・さん・・・・・」

由美が途切れ、途切れに呼ぶと、母親は涙を流した。

「ゆみー!!」

母親と反対側に居た由美の父親は、病室を抜け出し、急いで医者を呼びに行った。

 

由美の病室からちょうど死角になっている、通路の曲がり角に、悠也と夜光が居た。夜光は悠也に言った。

「いいのか?会わなくて?」

「あぁ。俺の事を忘れた方が、由美の為だ」

「それは、おまえの本心か?」

悠也は少し間を置いてから答えた。

「あぁ」

悠也と夜光はその場を後にした。

 

 

 一ヶ月後。由美は無事退院し、平和な日々を送っていた。由美は母親に頼まれ、近所の商店街で買い物をしていた。

「ふー。これで全部かな」

由美は家に帰ろうと歩いていると、本屋が目に止まった。

「・・・・なにか、新刊あるかな?」

由美は本屋の中に入って行った。すると・・・・・

「あっ・・・・・」

本屋の奥の本棚で、本を立ち読みをしている青年が居た。

「悠也さん!」

悠也は声を掛けられた方を見ると、目を丸くした。

「由美!なんでここに・・・・」

若干顔を赤くしながら、悠也は言った。由美は悠也が立ち読みをしていた本を見て、目を輝かせた。

「悠也さんも、このシリーズが好きなんですか?」

「あぁ。俺もこのシリーズは好きだ」

悠也は本を閉じながら言った。

「由美は買うのか?この本?」

「う~ん・・・・・今お金が・・・・」

由美は母親に渡されたお金しか持っていなかった為、しゅんぼりとなった。悠也はその本を二冊取り、レジの方へ行った。会計を済ませ、悠也は由美に本を一冊手渡した。

「いいんですか?」

由美は困惑しながら悠也に言った。

「あぁ。別にお金は返さなくていい」

悠也は普通に答えた。本屋を出て行こうとした悠也に、由美は慌てて後を追った。

「まっ、待ってください!」

由美は悠也の服の袖を掴んだ。悠也は止まり、由美の方を見た。

「あの~その~・・・・・悠也さん、あの時はありがとうございました!」

由美は慌てながらも、悠也に言った。暫く沈黙が続いた後、悠也は由美を抱いていた。

「えっ!?」

由美の顔は真っ赤になり、頭の中が大パニックになった。

「由美、かわい過ぎ。俺帰って来た時、由美の病室の近くに居たんだけど、会に行かなくてごめんな」

悠也は由美に謝った。悠也は由美から離れ、自分のした事に戸惑っていた。由美は悠也の手を握り、歩き始めた。

「悠也さん!私のお家に来ませんか?」

由美は笑顔で言った。

「あぁ。あと俺を呼ぶ時は、悠也でな」

悠也は顔を赤くしながら言った。

「うん!悠也!」

 

 

 二人が出会ってから、十数年後。

「父さん!花火してー!」

「僕もしたい!」

勇人(ゆうと)と武人(たけと)は悠也の所にやって来た。

「おいおい。もう花火を発見したのか」

悠也が密かに買っていた花火を、勇人と武人が嬉しそうに持っていた。

「いいんじゃない?今日やっても」

由美がエプロン姿で、悠也の所に来た。

「はぁ~。仕方ね―な。今日やるか」

「やったー!」

「わーい!」

勇人と武人は花火を持って、庭の方へと行った。由美は携帯を開き、画像を見た。そこには、火蔭達が映っていた。

「みんな、今はなにをしてるかな~。立派に成長してるかな?」

「あいつらなら大丈夫だろ」

「その確信は?」

「・・・・・なんとなくだ」

由美と悠也はお互い笑い合った。

 

 一方その様子を見ている者が居た。

「夜光。儂(わし)の孫達が、指名を果たす事になるのか?」

悠也の父、修冶(しゅうじ)は夜光に真剣な顔で言った。

「あぁ。俺は悠也がやると思っていたが、勇人と武人、それから勇人と武人の従兄の俊(しゅん)になるだろうな」

夜光は渋い顔で答えた。

「夜光よ、悠也の時は世話になった。儂の孫達も守ってくれるか?」

「・・・・俺自身が出向くのは難しいが、一族で守ろう。約束する」

「頼んだぞ・・・・」

 

 悠也の一族に秘められた力、妖魔界と人間界の危機・・・・勇人と武人、従兄の俊が活躍するのは、まだ先のお話。

 

終わり

 

▼前回の記事

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