妖狐の約束は月の光と共に その3-4

その3-4

*第七章* 頭領

 野狐組に捕らわれた、黒奏・伍金・雪菜の三人は、城の地下牢獄に幽閉されていた。

「ごめんなさい。私達がもっと、しっかりしていれば……」

「いや、最善を尽くしてくれたし、なっ!黒奏?」

「そうだよ。雪菜さん、元気出して?」

伍金と黒奏は、雪菜を励ました。

「ありがとう。元気が出て来たわ」

「そうそう。さてと、どうやってここから、脱出すっかなー」

伍金は檻の鉄の棒を、一本掴んだ。

「う~ん……黒奏。これ溶かせるか?」

「う~ん。どうだろう~」

黒奏も鉄の棒を掴んだ。術を発動しようとしたが、狐火がぷすっんと音を立てて、消えてしまった。

「…こりゃ~術が掛けてあるみたいだな」

「そうみたい……」

二人は他の方法がないか、考え始めた。

「伍金君、黒奏君。あの扉は何だと思う?」

雪菜は地下牢獄の中で、一番奥にある扉を指した。他の檻(おり)とは比べ物にならないほど、厳重な作りになっていた。

「うわ~。何であんなに厳重なんだろう…」

「そりゃ~、ヤバイ奴が居るんじゃね?」

伍金・黒奏の顔色が、青ざめていった。

「なっ、何をいっ、言ってるの?あはは…」

「そっ、そうだよな!あはは…」

雪菜は二人を落ち着かせた。すると、地下に誰かが降りてくる、足音が響いた。三人は檻の奥に引っ込んだ。暫くすると、三人が居る檻を通り過ぎ、奥の扉へ向かって行った。

「今の奴誰だ?」

「さぁ~。雪菜さんは……」

黒奏は雪菜の方を向くと、雪菜は通り過ぎた人物に、驚いていた。

「雪菜さん。あいつを知っているんですか?」

「えっ?あ、えぇ」

「あいつは何者なんだ?」

伍金は真剣な顔で聞いた。

「あの人は雪爺(ゆきじい)の雪釧(せっせん)さんよ。何でこんな所に…」

雪菜は渋い顔で考えた。

「ここに居るって事は、野狐組に加担してるって事か?」

伍金の発言に、雪菜は目を丸くした。

「そんな!今この国を治めているのは、雪釧さんなのよ!」

「えっ?守護一族の青鷺一族が、この国を治めているって、聞いたんだけど…」

黒奏は首を傾げた。伍金も同じように、首を傾げた。

「三年前に守護一族の頭領が、行方不明なの」

二人は目を丸くした。夏の国には、そのような報告は届いていなかった。

「知らなくても無理ないわ。雪で閉ざされたこの国は、隔離されているようなものだから……」

伍金はある事を口にした。

「もしかして、あの扉の奥にもっと重要なやつが、捕らわれているんじゃないか?」

雪菜は口を半分開けたまま、固まった。伍金は雪菜の肩を揺すり、雪菜ははっと我に返った。すると、突然扉の奥から、轟音が響いた。辺りが静まると、雪釧が扉を勢い良く開け、そのまま上へと上がって行った。

「…あいつ、相当ご立腹だったな」

「うん。何か言い争ってたね」

「そんじゃ、やりますか」

伍金は胡座(あぐら)を掻くと、呪文を詠唱し始めた。

「一体何をするの?」

雪菜は、黙って見ている黒奏に聞いた。

「憑依(ひょうい)術をやるんです」

「憑依?」

暫く詠唱が続き、一旦詠唱を止めた。

「憑依、『転狐(てんこ)』!」

叫んだ瞬間、伍金の体は傾き、黒奏は伍金を受け止めた。

「え?伍金君?」

雪菜は伍金を揺すったが、反応が無かった。

「成功したみたいですね。何に憑依したんだろう…」

「戻るまで、このまま?」

「うん。このままです」

黒奏は辺りを見渡すと、床に扉を目指す一匹の鼠が居た。

「兄さん。気を付けて」

鼠は尻尾を一振りすると、扉の方へ走って行った。

 

「さてと、どうやって中に入ればいいんだ?」

伍金は扉の前を、行ったり来たりした。扉は鉄で出来ており、巨大な南京錠が掛けられていた。更に、南京錠には術で壊されないように、呪が掛けられていた。扉の側の壁に来ると、小さな穴があった。

「おっ。通れるんじゃね?」

伍金は穴の中に入って行った。歯で囓(か)じったか、手で引っ掻いたかは分からないが、穴の中の壁には無数の跡があった。暫く歩いて行くと、部屋の中に辿り着いた。部屋は寒く、全身の毛が逆立った。

「さむっ。一体誰がこんな所に居るんだ?」

部屋の中を歩くと、奥に何かが置かれていた。

「あれは、鏡?」

奥の壁には大きな鏡が、立て掛けられていた。伍金は鏡の前に立ったが、姿は映らず、真っ黒だった。

「うん?あれは……誰だ?」

鏡を凝視していると、奥にうっすらと人影が見えた。伍金は試しに声を掛けてみた。

「おーい。大丈夫かー」

暫く静寂に包まれたが、声が届いたのか、誰かがゆっくり近づいて来た。

「うおっ!びっくりした~」

「…鼠?」

鏡の中の人物は、鼠が喋った事に驚いていた。

「あっ、俺は妖狐なんだ。今は鼠に憑依してんだ」

「妖狐か。妖狐族は憑依術が、使える一族だったな」

謎の人物は納得すると、その場に座った。

「そこから出られないのか?」

「あぁ。術が幾つも掛けられてる」

伍金は試しに鏡の中に入ろうとしたが、結界が張られているのか、中に入れなかった。

「あー。無理だな」

「こんな結界がなければ、直ぐに出てやつを葬るところだ」

「あいつ?あぁ。雪釧の事か」

「知っているのか?」

伍金はここまでの経緯を説明した。

「そうか。雪菜も居るのか」

「あぁ。で、お前は一体何者だ?こんな術を掛けられているんだから、ただ者ではないだろうけど」

「俺か?俺は青鷺一族頭領。名は嘩清(かせい)だ」

伍金は固まった。冗談半分で言った予想が、当たった瞬間だった。

「ははは。当たっちまった」

「何がだ?」

「いや。何でも無い」

伍金は歩こうとすると、突然目眩が起こり倒れた。

「大丈夫か?」

「あー。時間切れみたいだな」

伍金は立ち上がり、嘩清の方を向いた。

「まっ、もう少し待ってくれ。勇人が、いや。この世界の救世主が来るからよ」

「あぁ。待って居る」

伍金が穴を通り抜けると同時に、転狐が解け、元の体に戻った。

 

*第八章* 夢

 勇人・武人・俊・雪の四人は、部屋に案内された。

「雪は部屋に入らないのか?」

廊下に座っている雪に、勇人は襖の隙間から、顔を出して言った。

「うん。この方が、勇兄達を守れるもん」

「…そっか。あんまり無理するなよ?」

「うん!」

雪は笑顔で答えた。勇人は顔を引っ込め、襖を閉めた。

「雪は俺達の警護するってさ」

「そっか。僕達もそろそろ寝ようか。武人君は、もう寝てるし」

俊は布団で寝ている、武人を見た。旅の疲れが出たのか、ぐっすりと眠っていた。

「そうですね。じゃ、お休みなさい」

「お休み、勇人君」

勇人は布団に入り、目を閉じた。

 

「……うん?」

勇人は真っ暗な空間の、ど真ん中に居た。

「ここは、夢?」

勇人は辺りを見渡していると。

「勇人君!」

「お兄ちゃん!」

同じ空間に、俊と武人も居た。

「俊兄!武人!」

「勇人君。これってもしかして…」

夏の国で一度だけ、三人が同じ夢で会った事があった。

「おっ。察しが早いな」

勇人の背後から、突然声を掛けられた。勇人は慌てて振り返った。声を掛けた人物は、銀髪で銀色の瞳を持った、男が一人居た。

「誰ですか?」

武人は、勇人の背に隠れながら言った。

「あっ、俺怪しまれてる?」

「思いっ切りな」

勇人ははっきりと答えた。

「怖がらせて悪かったな。俺は四神が一人、名は白虎(びゃっこ)だ!宜しくな!」

勇人は口が半開きになり、武人と俊は固まった。妖魔界と宝玉の創設者が、目の前に居るのだから、当然の反応だ。

「なぜここに、四神様が?」

俊は恐る恐る聞いた。

「あぁ、お前らが海王を復活してくれた御陰で、俺達四神もこの世界に、来れるようになったからだ」

白虎は人懐っこい笑みで答えた。

「で、今回俺達を集めたのは、何か理由があるんだろ?」

勇人は白虎の側に来て言った。

「あぁ。冬の国の宝玉『白鴎(はくおう)』を、復活してもらいたいんだが」

「だが?」

白虎は勇人に顔を近づけた。

「おまえ達三人に、過去の冬の国に行ってもらいたい」

「過去って、タイムスリップか?」

「そうだ」

勇人は溜め息を吐いた。

「宝玉復活の為には、三つの神具がいる」

「三つの神具ですか?」

俊は首を傾げた。

「あぁ。現在その三つの神具は、破壊されて無くなっている」

「……うん?て事は、その三つの神具を、ここに持って来いと?」

「おっ。勇人頭が冴えてるな」

三人はお互いの顔を見た。三つの神具を手に入れなければ、冬の国は救えないという事だ。

「三つの神具を揃えて、その後はどうすればいいんだ?」

「揃えば分かる。俺が言えるのは、ここまでだ」

「……分かった。俊兄、武人、行こう」

二人は頷いた。

「おまえ達には感謝するぜ。目を覚ましたら、蔵に行け。地下に通じる扉がある。扉を開けて、その中に飛び込め」

「飛び込めばいいんだな?」

「あぁ。飛び込んだら、俺の力で過去へ飛ばす」

「分かった」

勇人が了承すると同時に、三人の視界は闇に包まれた。

 

*第九章* 過去へ

 勇人が目を覚ますと、外が騒がしくなっていた。

「何が起きたんだ?」

欠伸をひとつすると、突然襖が勢い良く開いた。

「勇兄!早く逃げて!」

「どっ、どうしたんだ!?」

「野狐組が、攻めて来たの!」

「なんだって!?」

勇人は急いで俊・武人を起こした。

「勇人君?」

「お兄ちゃん?」

「二人共早く!野狐組が、襲撃して来た!」

二人は聞くと、大急ぎで着替えた。

「雪!蔵は何処にあるんだ!」

「蔵?何で?」

「いいから!宝玉復活の為なんだ!」

「わっ、分かった!」

雪は三人を蔵へ案内した。

 

 

「氷(ひょう)『乱舞(らんぶ)』!」

中庭を通過する途中、敵が斬りかかって来たが、雪の氷の刃で防いだ。四人は蔵に何とか辿り着き、扉を開けた。床を調べると、壁際に置いてある、葛籠(つづら)の下に扉を発見した。葛籠を退かし、扉を開けた。

「真っ暗だ…」

雪は覗き込みながら言った。

「雪。俺達は暫く帰って来ない」

「えっ?何処に行くの?」

雪は泣きそうな顔で言った。

「ちょっと、過去へな。大丈夫だ!土産を持って、帰って来るからよ!」

勇人は雪の頭を撫でながら言った。

「分かった!気を付けてね!」

雪は笑顔で言うと、三人は飛び込んで行った。雪は三人の姿が見えなくなるまで見送ると、蔵の外へ出た。

「勇兄達が帰って来るまで、ここは渡さない!」

雪は激戦の中に、戻って行った。

 

果たして、三人は無事に神具を、手に入れる事が出来るのか。

 

続く

 

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