妖狐の約束は月の光と共に その3-3

その3-3

*第四章* 野狐組(やこぐみ)の襲撃

 深夜。宿は静まり返り、勇人は鼾(いびき)をかいていた。窓際近くには、白陽が座った状態で眠っていた。すると、突然白陽は目を覚ました。

「これは……殺気か?」

白陽は勇人の側に行き、勇人を無理矢理起こした。

「何だ?まだ夜だぞ?」

「寝ぼけている場合ではないぞ。見ろ」

白陽は寝ぼけている勇人を、窓際に連れて行き、そっと覗き込んだ。宿周辺にははっきりとは見えないが、宿を囲むように無数の影が見えた。

「この気配は、野狐組か?」

「おそらくな」

「何で奴らは、俺達の居場所を知ってんだ?」

「鵜月が言ったんだろう。そうとしか考えられない」

「鵜月が?」

勇人は自分の甘さに憤(いきどお)りを感じた。自分が鵜月を信じたばかりに、仲間を危険に晒(さら)していた。

「勇人、恥じても仕方がない。今はこの状況から、抜け出す事だけを考えろ」

「…そうだな。俺達はここで捕まってる場合じゃねー」

勇人は打開策を考え始めると、外の様子が変化して来ている事に気付いた。

「白陽、何かまた吹雪いて来てないか?」

「確かに。風がまた強くなっている」

吹雪は更に勢いを増し、外の景色が見えなくなってきた。宿を取り囲んでいた野狐組は、慌てだした。

「何だこの吹雪は?」

妖怪達の注意が散漫になっていた時、吹雪の中から、一閃の光が現れた。光に当たった妖怪達は、その場に倒れた。

「これは一体…」

羽黒は木から飛び降り、辺りを見渡した。

「ここで会うとはな。羽黒(はぐろ)」

「…霞月か」

吹雪の中から霞月が現れた。霞月の手には、巨大な斧が握られていた。

「羽黒、鵜月は何処に行った?」

霞月は羽黒を睨んだ。すると、羽黒は突然笑い出した。

「ハッ、ハッ、ハッ!雪夜叉(ゆきやしゃ)のお前が、他人の心配をするとはな!お前も随分変わったものだな!」

「俺の質問に答えろ!」

羽黒は手をヒラヒラとさせた。

「もう帰ったぜ。塵となってな!」

羽黒は漆黒の羽を広げ、その羽が霞月に襲い掛かった。

 

「殺気!」

白陽の耳と尻尾の毛が逆立った。

「この殺気は半端無いな」

勇人も僅かながら殺気を肌で感じた。

「…どうやら、お出ましのようだな」

白陽と勇人は部屋の扉に向いた。張り詰めた空気が流れ、扉が開こうとしている。その時、廊下から悲鳴のような声と共に、妖怪の気配が消えた。沈黙が流れ、白陽と勇人はお互いの顔を見た。

「何が起きたんだ?」

白陽は首を横に振った。暫く様子を窺(うかが)っていると、突然部屋の扉が開き、冷気が部屋の中に入って来た。

「ふ~。疲れた~」

扉から女の子が一人入って来た。白陽は目を丸くした。

「雪?」

「あっ!白兄(はくにい)みっけ!」

雪は白陽と勇人の所に来た。雪は白陽に抱きついた。

「白陽、この子は?」

「雪ん子の雪だ。俺の友達」

勇人は雪を見た。自分より年下だとは、予想外だった。

「白兄、この人があの?」

「あぁ」

雪は白陽から離れ、勇人の側に来た。

「お兄ちゃんのお名前は?」

「棚田勇人だ。宜しくな!」

「勇兄(ゆうにい)だね!雪です!宜しく!」

雪と勇人は握手をした。三人は部屋を出ると、廊下には床一面に、氷が散乱していた。氷の中には、野狐組の妖怪達の死体が、氷付けになっていた。

「げー。これ全部野狐組か?」

勇人の顔が少し青ざめた。

「流石は雪だな。これは雪の技だから、心配するな。にしても、俊と武人は無事だろうか?伍金と黒奏が居るから、無事だろうが…」

白陽は慣れているのか、氷を避けながら歩いていた。

「お母さんが行ってるから、大丈夫、大丈夫!」

雪は血で赤くなっている氷の上を、滑るように歩いていた。

「何で二人共平気なんだ…」

勇人は置いて行かれないように、氷を避けながら付いて行った。

 

 

 勇人・白陽・雪の三人は、宿の一階に着いた。そこには俊・武人・伍金・黒奏・雪菜が揃っていた。

「勇人君!大丈夫だった?」

「はい。何とか」

俊はほっと一安心した。雪菜は雪に確認した。

「これで全員ね」

「うん!」

外では霞月が、羽黒と戦う音が響いていた。

「今の内に、ここから脱出しましょう」

雪菜を先頭に、勇人一行と雪は宿の裏口へ向かった。雪菜が裏口の扉を開けようとした時だった。

「……」

「どうしたの?お母さん?」

雪は雪菜の顔を見た。雪菜は扉から手を離し、白陽・伍金・黒奏の方を見た。三人は雪菜と同じように、外の気配に気付いていた。

「雪。あなたは、人間のお兄さん達を連れて、あの方達の所へ向かいなさい」

「えっ!どうして!」

「雪、もう時間がないの!」

雪は暫く渋ったが、小さく頷いた。

「では、準備はいいですね?」

雪菜は扉を勢い良く扉を開けた。

「行きなさい!雪!」

雪菜の合図と共に、吹雪が巻き起こり、視界が阻まれた。

「雪!何処へ行くんだ!」

「勇兄!人間のお兄ちゃん達も、雪に付いてきて!」

雪は勇人・武人・俊の三人を連れて、吹雪の中へと向かい消えた。

「狐火!」

白陽・伍金・黒奏は雪菜と共に、野狐組に立ち向かった。

 

*第五章* 青鷺(あおさぎ)一族 

 吹雪の中は不思議な空間が広がっていた。雪は勇人・武人・俊の三人を連れ、走っていた。先を見ると、一筋の光が見えてきた。四人はその光を目指し、走って行った。

「うわっ、眩し!」

光を抜け、勇人は目をゆっくりと開いた。辺り一面は雪に覆われ、平原が続いていた。

「明るい」

俊は空を見上げた。華晶とは違い、雲一つ無い青空が広がっていた。

「勇兄達!こっち、こっち!」

雪は三人を手招きした。三人が雪の側に来ると、崖があった。

「たっ、高い」

武人は勇人の腕にしがみついた。

「あそこが、目的地だよ!」

雪は崖から、少し離れた所を指指した。そこには、小さな村があった。

「村か?」

「うん!冬の国最北端、青鷺一族領。『青火(せいか)』だよ!」

「青鷺一族?」

勇人は首を傾げた。

「もしかして、宝玉の守護一族?」

俊は村を見ながら言った。守護一族の村にしては、かなり小さい規模だ。

「昔は華晶にも負けない、大きな町だったんだよ」

雪は何処か悲しい顔をしていた。俊はこれ以上、聞かないでおく事にした。

「とにかく、早く村に行こう。僕ここ恐いよ…」

「あ~。武人は高い所が、苦手なんだよな」

「うん」

武人は崖下を見ないように言った。

「雪。村に行こうぜ。向こうも待ってるんだろ?」

「分かった!」

四人は村へ向かうため、崖を下る道へ向かった。

 

 

 四人は崖を下り、森の中へと入って行った。森の奥へ進んで行く中、俊は勇人に小声で言った。

「勇人君。誰かの視線を感じないかい?」

「俺も感じる」

武人は勇人達に付いてくるのに必死で、気付いていないようだ。

「なぁ雪。ここら辺は、誰か住んでるのか?」

「え?誰も住んでないはずだけど…」

勇人は俊の方を見た。どうやら、同じ事を考えているようだ。俊はそっと勇人達から離れ、視線を感じた木の側にそっと移動した。勇人は気付かない振りをしつつ、俊が隠れたのを確認すると、突然上を向いき、大声で言った。

「そこに隠れてるお前!何者だ!」

雪と武人は目を丸くした。すると、木の上から誰かが飛び降りた。顔には鬼の面を付け、手には何か光る物が見えた。

「げっ!斧!」

「なぜ分かった?お前こそ一体何者だ?」

三人はあまりの殺気に、動けなかった。謎の人物は敵と認識したのか、手に持っている斧を振り上げた。

「俊兄!」

俊は謎の人物の背後に現れ、着物を掴むと、そのまま投げ技を掛けた。斧を持った人物は、踏ん張ることが出来ず、そのまま投げ飛ばされた。雪の上に投げ飛ばされ、衝突音が響き、木の葉に乗って居た雪が、大量に降って来た。

「俊兄!大丈夫か?」

「何とかね。斧持っていたから、驚いたよ」

俊の側に三人は集まり、投げ飛ばされた人物を見た。落ちて来た雪で鬼の面が取れ、素顔が露(あら)わになっていた。

「え!月影(つきかげ)さん!?」

雪は突然大声で言った。

「雪ちゃん。この人は、雪ちゃんの知り合い?」

「うん。月影さん、大丈夫?」

俊は申し訳ない、と言った表情になった。雪は慌てて雪を退かし、月影の肩を揺すっていた。

「いってーな。あっ、雪か」

「雪か、じゃないです!勇兄達に怪我なんかさせたら、長老様に何て言われたか!」

「長老様に?て事は、例の人達か?」

雪は大きく頷いた。

 

 

「悪かったな。何せこの村の警護を、兄貴に頼まれてさ」

「兄貴?」

勇人は首を傾げた。

「あぁ。突然『あの方達を迎えに行く』なんて言ってよ。今ここの警護を、一人でやってんだぜ」

月影は大きく溜め息を吐いた。

「霞月さん、大丈夫かな…」

雪は少し暗い表情になった。

「心配ねーさ!白陽や伍金や黒奏も居るし、それに雪菜さんも居るしよ!」

「勇兄…」

勇人は雪の肩を軽く叩いた。一番辛い立場にも関わらず、明るく接する勇人に、雪は笑顔になった。

「そうだよね!妖狐のお兄ちゃん達とか、お母さんも居るもんね!」

「だろ?俺達は自分が出来る事を、ちゃんとやらねーとな!」

勇人も笑顔で言った。月影はそんな勇人に、何かを感じた。

「これが、選ばれし者か」

月影はぽつりと言った。

 

 

 森を抜けると、目的地『青火』の入り口に着いた。月影は見張りの人々と少し話し、五人は村に入った。村は静寂に包まれ、人は出歩いていなかった。

「……静かだな」

「そうだね」

「何だか、静か過ぎて恐いよ…」

勇人・俊・武人は、村を見渡しながら言った。

「冬の国には、敵が居るからな。今は外出を控えてんだ」

暫く歩いて行くと、大きな和風の屋敷に着いた。月影は屋敷の門の前に立った。

「青火護衛、月影。例の方々をお連れした。ここを開けろ!」

門は大きな音をたてながら、ゆっくりと開いた。

「屋敷内は長老様の仕えの者が、案内してくれる」

「月影は入らないのか?」

勇人は、月影を見上げながら言った。

「俺は護衛に戻るぜ。野狐組がいつ来るか、分からねーしな。雪。何か有ったら、三人を頼むな!」

「了解!」

月影は屋敷の外に行った。勇人は俊・武人・雪の四人で、屋敷の中に入ると、扉がゆっくりと閉まった。

 

 

 屋敷に入り、長老様に使えている者が、勇人達を屋敷の奥へ案内していた。

「こちらです」

大きな部屋の前に着き、雪は部屋の外で待っている事になった。勇人・武人・俊の三人は、部屋の襖を開け、中に入った。部屋の中は畳が敷かれ、奥では誰かが座って居た。使いの者は、部屋を退出し、襖を閉めた。

「そこに立っていると、疲れるであろう。そこの座布団にでも、座りなされ」

威厳に満ちた声に、三人は座布団に座った。

「よく来てくれた。そなた達の事は、夏の国の頭領から聞いておる」

「釧濫さんから?」

「そうじゃ」

釧濫の名を聞いて、勇人は目を丸くした。夏の国が復活してから、まだ数日しか経っていないからだ。

「なら、話してくれますか?この冬の国で、何が起きているのか」

俊は真剣な眼差しで、長老を見た。

「元よりそのつもりじゃ。今から三年前、大災害が起きた時の事じゃった…」

 

 

 三年前。野狐組による宝玉崩壊により、四つの国で様々な災害が発生した。ここ冬の国は、一年中日が差さない、極寒の国となってしまった。当時、青鷺一族の長であり冬の国頭領、嘩清(かせい)は災害の対策に追われていた。

「どうすんだよ!このままじゃ俺達は、飢え死にしちまうぜ!」

青火の近場にある森の中で、雪夜叉一族の月影は叫んでいた。突然の自然災害に、冬の国全土が、食糧難になっていた。

「それに、今はまだ宝玉の御陰で助かっているが、いつまで保つか分からないぞ」

月影の兄霞月は、木に寄り掛かりながら言った。青火だけが極寒の地になっていないのは、崩壊しても尚、宝玉が結界を張っているからだった。しかし宝玉の輝きは、失われつつあった。

「…霞月、月影。一族の長達を集めろ」

「長達をか?」

月影は首を傾げながら言った。霞月は嘩清が何を考えているのか、大体見当が付いていた。

「長を集めて、打開策を考えるのだろ?」

「あぁ」

月影はあぁ~と納得した。二人は一族の長を集めるべく、吹雪と共に姿を消した。

 

 

 嘩清の呼びかけで、各町を治める一族の長があつまった。雪女・雪ん子を含む、雪(ゆき)一族。雪夜叉一族。行逢神(ゆきあいがみ)一族。冬の国を治める守護一族、青鷺一族。

「早速本題だが、この状況をどうするか、意見を聞きたい」

嘩清は長達を見た。

「あたいの所は、もう手一杯だよ。これ以上は、養えないよ」

雪夜叉の長、靄叉(あいしゃ)は険のある声で言った。他の長達も、靄叉の意見に頷いた。

「何処も精一杯やってる。しかし、青火はまだ余裕があるのに、受け入れを拒んでいると、我は聞いたが」

行逢神の長、流(ながれ)は嘩清を見た。他の長達は、一斉に嘩清を見た。

「嘩清。どういう事だい?説明しろ」

靄叉は嘩清に詰め寄った。しかし、嘩清は溜め息を一つ吐いただけだった。

「青火も受け入れたいが、青鷺の前頭領である長老が、許可を下さらないのだ」

「何を言っておる。この国の頭領は嘩清、そなたなのだぞ」

「そうですわ。納得出来ない」

雪の長、雪香(せっか)も声を荒げた。

「……分かった。今日はここに泊まってくれ。今夜もう一度、長老と話してくる」

嘩清は仕えの者を呼び、長達を部屋へ案内させた。長達が部屋を出ると、嘩清は長老の部屋へ向かった。

 

 

 長達の話し合いから翌日。屋敷内では仕えの者、警護に当たっていた者全員が、走り廻っていた。

「そちらには居たか!」

「いいえ!こちらにも居りません!」

話し合いの様子を見に来た、霞月と月影は目を丸くした。

「おい。何があった?」

霞月は近くにいた、護衛の者に聞いた。

「それが、長老様と長全員が、行方不明なんです!!」

「なっ!?」

「なんだと!?」

霞月と月影は、驚きの声を上げた。

「月影。屋敷の中心地に行くぞ」

「了解!」

二人は屋敷の中心地である、中庭に向かった。

 

 

「月影。準備はいいか?」

「おう!いつでもいいぜ!」

霞月と月影は目を閉じた。

雪風(せっぷう)『透風(とうふ)』!」

雪風(せっぷう)『透風(とうふ)』!」

二人の周りに、吹雪が巻き起こった。吹雪は屋敷全体を包んだ。

「………見えた!」

月影は走り出した。霞月もその後を追った。暫く走ると、屋敷の蔵に着いた。月影が蔵の南京錠を凍らせると、自然に割れた。扉を開けると、室内の熱気が外に溢れた。二人は構うことなく中に入ると、奥には縄の端が見えた。走り寄ると、縄で縛られた長老が横たわっていた。

「長老様!」

霞月は斧で縄を切り、長老を解放した。

「気絶してるみたいだな」

月影はほっと一安心した。

「まだだ。長達が見つかっていない。月影、長老様を頼む」

「おう!」

霞月は長達を探すため、蔵の外へ出た。

 

 

「その後、長達を皆で探したが、結局見つからなかったのじゃ」

「じゃぁ、今も何処かで…」

武人の顔は青白くなった。

「そうかもしれん。あるいは、死んでいるかもしれん」

長老の顔が暗くなった。嘩清が承諾を貰いに行った時は、長老は偽者であったという事だ。

「長老様、もっと明るく考えましょう!俺達がこうして来た訳だし!なっ!」

勇人は武人と俊を見た。二人は、勇人の呼び掛けに頷いた。

「流石、選ばれし者じゃな。儂もお主達に協力しよう」

三人の表情が明るくなった。外は既に夜になっていたので、長老は仕えの者に、三人を部屋へ案内するように言った。

「そこのお主」

最後に部屋に出ようとした勇人は、長老に声を掛けられた。

「俺ですか?」

「そうじゃ」

勇人は長老の側に来た。

「そなた達は三人揃って、初めて一つの力になる。誰かが欠けると、真の力は発揮出来ない」

長老はゆっくりと、勇人の方を向いた。

「これからも幾度となく、困難に立ち向かって行く事になるじゃろう。その時は、そなたがあの二人を、引っ張って行きなさい」

「俺が……ですか?」

「そうじゃ。そなたなら、出来る」

勇人は暫く、長老と見つめ合った。

「……俺、必ず三人で、この世界を救ってみせます!絶対に!」

「頼もしい限りじゃ」

勇人は長老に一礼し、部屋を出た。

「明人(あきひと)よ、お主の子孫は、頼もしいの~」

長老は微笑みながら、月を見上げた。

 

*第六章* 幼い青鷺 

 時は少し戻り、宿の方はというと。表では羽黒と霞月が、激しい攻防戦を繰り広げていた。

「どうした!お前の実力は、こんなものか!!」

「くっ」

羽黒の連続技に、霞月は守備で必死だった。

「これで、終わりだ!」

漆黒の羽が、霞月に直撃する寸前だった。

「狐火『火車(かしゃ)』!」

霞月の背後から、無数の火の輪が回転しながら、羽を焼き尽くした。

「お前が霞月か!早く逃げるぞ!」

野狐組の妖怪達から何とか逃げ切った白陽は、霞月の腕を掴み、手に火を灯した。

「逃がすものか!!」

羽黒が白陽に斬り掛かると同時に、白陽は火を放った。

「狐火『火蛇(ひだ)』!」

火は無数の蛇になり、四方八方から羽黒に目掛けて、飛んで行った。羽黒はこの技を難無く躱(かわ)した。火が消えて無くなると、白陽と霞月の姿は無かった。

「探せ!!まだこの近くに居る筈だ!!」

 

 

野狐組の妖怪達は、必死になって二人を探していた。

「奴らは何処へ行った!」

「羽黒様がお怒りになれば、我々も唯では済まぬぞ!」

「…このままだと、見つかるな」

白陽は板の裏から、様子を窺(うかが)った。

「すまない。俺のせいで……」

「気にするな。俺達は仲間だろ?」

「他の者はどうした?雪菜や雪も居たはずだが…」

白陽は少し暗い顔で話し始めた。雪が術で、勇人・武人・俊を連れて行き、伍金・黒奏・雪菜と戦っていた。戦っている最中、野狐組の増援がやって来た。伍金・黒奏が捕まり、雪菜は白陽を霞月の元へ逃がすために、囮(おとり)になった。

「済まない。俺が至らないばっかりに…」

霞月は白陽の肩を軽く叩いた。

「なら、ここを早く脱出しないとな。三人を助けるために」

霞月はゆっくりと立ち上がった。

「ところで、名はなんと言う?」

「俺の名は白陽。妖狐だ」

「白陽か。覚えておく」

妖怪達が去ったのを確認すると、霞月・白陽の二人は走った。

「これから何処へ向かえばいい?」

「雪族の領土へ行ければいいが、関所にはやつらが居るだろうな」

「正に、八方塞がりか」

路地裏に入り、妖怪が居ない道を進むと、行き止まりに着いた。

「ちっ。行き止まりか」

「霞月!伏せろ!」

二人は地面に伏せると、頭上を通過し、無数の黒い羽が、木の壁に突き刺さった。霞月は素早く立ち上がり、吹雪を起こした。上空を飛ぶ烏天狗達は、あまりの強い風に遠くへ飛ばされた。

「ありがとな、白陽」

「いや。それより、腕大丈夫か?」

「これくらい平気だ」

霞月は着物の裾を捲ると、腕の傷はほとんど塞がっていた。

「雪夜叉、恐るべしだな」

二人は再び走りだそうとすると、霞月は微かに気配を感じた。

「そこに居るのは、何者だ?」

暫く霞月が睨んでいると、建物の陰から少年が現れた。

「敵では…ないな」

霞月は睨むのを止めた。

「何の用だ?」

白陽は警戒しながら聞いた。

「あなたはもしかして、夏の国から来た人ですか?」

白陽は目を丸くしたが、直ぐに攻撃態勢に入った。

「何故それを知っている?」

「あわわ!別に僕敵じゃないですよ!僕は唯、協力して欲しくて……」

「協力?」

それでも姿勢を崩さない白陽に、霞月は少年と白陽の間に入った。

「まぁ、落ち着け。で、お前さんは一体何者だ?」

「僕は…」

辺りに誰も居ない事を確認し、少年は口を開いた。

「僕は青鷺一族。名前は灯青(とうせい)です」

「灯青!?」

霞月は口が半分開いていた。白陽は一瞬尾の毛が逆立った。

「霞月、突然叫ばないでくれ。敵に気付かれる」

「あぁ。すまん」

「で、あの子は何者なんだ?」

霞月は少し間を置いてから話した。

「灯青様は、次期青鷺一族、頭領になられるお方だ」

「……は?」

白陽は霞月と少年を交互に見た。

 

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