妖狐の約束は月の光と共に その3-2

その3-2

*第二章* 冬(とう)の国、『六(ろっ)華(か)晶(しょう)』 

 広大な海に、巨大な帆船『蛟来号(きょうらいごう)』が、目的地に向かっていた。空は厚い雲に覆われ、吹雪いていた。

そんな中、蛟来号の一室に、一人の少年が居た。その少年の名は、棚田勇人。

「……はっ!」

勇人は目を覚まし、ベットから飛び起きた。全身が汗で濡れていた。

「はぁ、はぁ……夜光、夜尾……」

勇人は二人の名を呟(つぶや)いた。砡(ぎょく)王(おう)に取り付かれた夜尾を思い出し、全身に鳥肌が立った。

「砡王、絶対に許さねー」

勇人は新たな決意を固めた。ベットから立ち上がり、服に着替えていると、部屋の扉が開いた。

「勇人、起きてるかー…て、今日は早いな」

「あぁ、伍(ご)金(こん)。おはよう」

勇人は軽く挨拶した。伍金は少し怪訝な顔をした。

「勇人、何か悪い夢でも見たか?」

「へっ?」

勇人はドキッとしたが、少し間を置いてから答えた。

「何でそんな事聞くんだ?」

「いや、何かいつもの、元気さがねーなーと思ってな」

勇人は今朝の夢について話そうかと思ったが、自分の胸に仕舞っておく事にした。

「いや、何も見てねーよ。そんな顔すんなって、なっ!」

勇人は伍金の肩を軽く叩いて、部屋を出て行った。伍金は首を傾げたが、気にしない事にした。

「待てよ勇人!俺を置いて行くな!」

伍金は勇人の後を追い、部屋を出た。

 

 

「お兄ちゃーん!」

甲板に出ると、武人が走って来た。

「武人、その格好で寒くないのか?」

「ううん!平気だよ!」

武人はその場で、元気に飛び跳ねた。武人の元気な姿を見た勇人は、気分が楽になった。

「相変わらず、武人は元気だな」

「箔蓮(はくれん)。武人の世話ありがとうな」

「礼には及ばない。我は付いて来ている、だけだからな」

箔蓮は宙を漂い、武人の肩に着地した。

「勇人、ここに居たか」

蓮蘭(れんらん)が船長室から、勇人達の所にやって来た。

「早く船長室に行ってくれ。暫く船は揺れるぞ」

「揺れる?」

勇人は首を傾げた。箔蓮は尻尾で、海の方を指した。勇人と武人は海の方を見ると、海には流氷が流れていた。

「流氷!?」

「そうだ勇人。さっ、早く行ってくれ」

勇人達は船長室の方へ向かった。

 

 

 船長室に入ると、朝食の良い匂いが漂っていた。すると、勇人のお腹が盛大に鳴った。お腹の音に、船長室に居た俊・釧濫・火陰・白陽・黒奏が、勇人を見た。

「勇人君、おはよう」

「あっ、あぁ。おはよう」

俊は何事も無かったように挨拶をした。俊以外のメンバーは、笑いを必死に堪えていた。そんなメンバーの様子に、勇人は顔を真っ赤にした。

「とっ、とにかく食べようぜ!お、俺腹減ってるし!」

伍金は勇人の腕を掴み、席に座らせた。武人も席に付き、皆と朝食を食べ始めた。

 

 

「にしても、すげー揺れるな」

勇人は食パンを、口に頬張りながら言った。

「まぁー流氷が多いからな」

釧濫は船長室の窓を指差した。勇人は窓を覗くと、国に近付いている為か、流氷の数が増し、激しい吹雪が起きていた。

「めっちゃ吹雪いてませんか?」

「宝玉が崩壊してから、ずっとこんな感じだそうだ」

「崩壊…」

勇人は夏(か)の国の事を思い出した。宝玉崩壊により、国事態が海に沈む大惨事が起きた。異常気象が起きても、不思議ではない。

「釧濫さん。俺、絶対に負けません」

「おう。その意気だ!」

蛟来号は流氷を避けながら、順調に冬の国、『六華晶』に向かっていた。

 

*第三章* 忍び寄る影

蛟来号は無事港に到着した。勇人・武人・俊、妖狐三兄弟は船を降りた。

「勇人!」

釧濫に呼ばれた勇人は、釧濫の方を見た。

「冬の国を頼んだぞ!」

「はい!釧濫さんもお元気で!」

蛟来号は港を出港し、夏(か)の国へと帰って行った。

 

 

船を見送った一行は、茶屋の中に居た。火陰の話によると、火陰と白陽の親友の雪(ゆき)が、冬の国の案内役をやってくれるらしい。その人に会うため、お団子を食べながら待っていた。。

「うん?誰だ?」

勇人はお団子を頬張りながら、近づいて来た青年を見た。青年は緊張しているのか、少し小さな声で言った。

「雪さんの代理として来ました。案内人の鵜月(うづき)と言います」

「代理?」

白陽は鵜月を睨み、鵜月の肩がビクッとなった。

「兄さん、落ち着こうよ。殺気が出てるよ」

「そうだぜ兄貴」

黒奏と伍金は白陽を宥(なだ)めたが、白陽は睨むのを止めなかった。

「あっ、気にすんな鵜月。白陽はいつもこんな感じだから」

「そっ、そうですか。あはは」

勇人の言葉で、鵜月は少し落ち着いた。

「で、俺達を何処に案内してくれるんだ?」

「はい。この国の中心都市『華(か)晶(しょう)』で、宿を予約していますので、そちらにご案内します」

「おう。頼むぜ」

一行は鵜月の案内で、茶屋を後にした。そんな中、白陽は雪の代理という鵜月に対して、更に警戒を強めていた。

 

 

 港から関所を通過し、一行は冬の国の都市、華晶に到着した。鵜月に案内された宿に入り、一行は二階の各部屋に移動した。

「それでは、ごゆっくり」

「おう。鵜月ありがとな」

鵜月は一礼して、一階へ降りて行った。勇人は部屋に入り、畳の上で大の字になった。

「いや~広くていいな~」

「暢気な事を言ってる場合か」

白陽は真剣な顔で、溜め息を付いた。勇人は上半身を起こし、白陽を見た。

「白陽、まだ鵜月の事を疑ってるのか?」

「…確信は無いが、違和感があるなと思ってな」

「う~ん…」

勇人は鵜月の隣を歩いていたが、特に不審な行動は見受けられなかった。その日は、もう夜になっていたので、二人は早く寝る事にした。

 

「これで、いいんですよね?」

「あぁ。ご苦労だったな」

宿から少し離れた広場で、鵜月は木を見上げながら話していた。

「それでは、これで…」

「待て」

鵜月の肩が勢い良く跳ね上がった。恐る恐る後ろを振り返ると、漆黒の翼を広げ、ニヤリと笑う羽黒の姿があった。鵜月は全身に冷や汗が流れているのが、嫌でも分かった。

「我々の正体を知っているお前を、何もせずに帰すとでも思ったか?」

「まっ、待って下さい!どうか命だけは!」

「散れ」

無数の漆黒の羽が鵜月を包み、暫くすると鵜月の悲鳴は途絶えた。

「夜尾様から命令だ。奴らを必ず生け捕りにしろ」

広場の影から、無数の妖怪達が、勇人一行の居る宿へと向かった。

 

「お母さん、本当に今日じゃないの?」

「ええ。まだ来ていないって、鵜月君から連絡が来たわ」

「う~ん。火蔭兄(ひかげにい)から手紙を貰って、随分経ったんだけどな~」

雪は家の縁側に座り、庭の雪を眺めていた。すると、家の塀を跳び越え、庭に一人の男が着地した。

「あっ、霞月(かづき)さんだ」

「雪、雪菜(せつな)は居るか?」

「まぁ。霞月さん、どうなさったのですか?」

霞月は縁側の近くに来て、雪と雪菜に聞こえる程度で言った。

「既にあの方達が、到着しているそうだ」

「えっ、嘘!?お母さん!」

「急いで向かいましょう」

雪と雪菜は直ぐに支度をし、霞月と共に吹雪の中へと消えて行った。

 

 

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