妖狐の約束は月の光と共に その2-3

その2-3

*第七章* 龍(りゅう)神島(じんとう)と洗礼式(せんれいしき) 

蛟一族の船、蛟来号はある島に向かっていた。

「おまえら!モタモタしてんじゃねぇぞ!」

「へい!船長!」

そんな様子を少し離れた所から、俊一行は眺めていた。

「蓮蘭さんカッコイイね、武人君」

「そうだね、俊兄」

俊一行は船が目的地に着くまでの間、舜に船の案内をしてもらっていた。こんなに大きな船は、そうそうお目に掛かれない。

「だろ?蓮蘭さんは女性でありながら、俺達に引けを取らない素晴らしい人っす」

舜は目をキラキラさせながら言った。俊は舜に質問をした。

「本当にね。ところで、僕達は今何処に向かっているの?」

「『龍神島』っす!」

龍神島?」

「そうっす!龍神島は、俺達の故郷っす!」

蛟来号は無事、龍神島の港に辿り着いた。

 

 

 水球は龍雹島に流れ着いた。華楠は水球を解除し、水球から外に出たメンバーは、辺りを見渡した。砂浜が広がり、奥には森があり、頂上に雲が掛かるほど高い山があった。とにかく大きい島だ。伍金は言った。

「でけーこの島」

火蔭は言った。

「当たり前だ。この島全土が、夏の国だからな」

四人は海岸沿いを歩き出した。すると、一人の男が岩の上に座っていた。海を眺めているようだ。火蔭はその男に向かって言った。

「おい!そこの男!」

男は火蔭の方に振り向いた。ライトブルーの瞳に、銀髪が風に靡いていた。左目の所に二つの傷跡があった。勇人・伍金・華楠は、その姿に釘付けになっている中、火蔭は驚きの余り、口が塞がらなくなっていた。火蔭は言った。

「釧濫(せんらん)さん!!」

「おっ!火蔭じゃねぇーか!」

男こと釧濫は、勇人達の所に来た。

「おっ火蔭、新しい友達か?」

火蔭は言った。

「はい。右から妹の華楠で、妖狐族の伍金に勇人です」

「宜しくお願いします」

「宜しく!」

「宜しくです」

勇人・伍金・華楠の順に言った。

「おぉ。君が華楠ちゃんか!かわいいじゃねぇーか!それに、妖狐族がここに来る何て珍しいな」

釧濫は勇人の方を向いて言った。

「勇人だっけか?君は・・・人間か?」

勇人はストレートに言い当てられ、目を丸くした。勇人は言った。

「どうして分かったんですか?」

「う~ん・・・勘だな。昔一度だけ人間に会った事があってな。それで何となくな」
(昔?ご先祖様の事か?)

四人は釧濫が住む町に、向かう事になった。釧濫の後ろを付いいる時、勇人は火蔭にこっそり聞いた。

「火蔭。釧濫さんって、もしかして・・・・・・」

「あぁ。あの大災害に巻き込まれた」

「やっぱり・・・・・でも、どうして生きてるんだ?」

「さあな。でも、俺はまた会えてすげー嬉しい」

勇人は火蔭の顔を見た。目がとても輝いていた。

(宝玉は本当に割れたのか?本当にこの島は沈んだ島なのか?)

 

 

 蛟来号を降りた一行は、港町を歩いていた。活気に満ち溢れ、とても賑やかだった。ここが本当に大災害を受けた島には、全然見えなかった。武人は言った。

「俊兄!あれなーに?」

「あれはガラス細工だよ」

「あれガラスなの!すごーい」

武人は目を輝かせながら言った。武人は結構光り物が好きな方だ。舜は言った。

「ここはガラスや青銅を使って、細工物を昔から作ってるっす!」

港町を暫く歩いていると、黒奏はお店を発見した。ガラス越しに覗くと、ガラス細工の小物や青銅器の置物が置かれていた。俊一行は店の中に入る事にした。店の中には他にも様々なガラス細工や、青銅を使った細工物が置かれていた。一行が店の商品を見ている中、舜は店員に聞いた。

「すいません」

「はい。何でしょうか?」

「あの青銅の物は祭りのっすか?」

「えぇ。蓮蘭様のご注文で作った物です」

舜は何処か、遠くを見詰めながら言った。

「そうっすか。もう祭りの時期なんっすね」

「・・・そうですね。もう三年になるんですね」

店員も何処か遠くを見詰めていた。

 

 

 龍雹島では、祭りの準備で町の人達がせわしなく動いていた。釧濫によると、年に一回行われる龍雹島では最大の祭りだそうだ。勇人達も釧濫の故郷『青凜(せいりん)』で町の人々と一緒に、祭りの準備の手伝いをしていた。勇人・伍金は、礼拝場作りの手伝いをしていた。まぁ、雑用が主だが。勇人は言った。

「伍金、祭りはここ青凜からスタートだったよな?」

「あぁ。何でもこの龍雹島を、端から端まで行くんだってよ」

「どれくらい掛かるんだ?」

後ろから突然釧濫が言った。

「そうだなー大体一週間くらいってとこだ」

勇人・伍金は、慌てて後ろを振り向いた。勇人は言った。

「わっ!?釧濫さん!?」

「ぼやっとしてっと、怒られるぞ!」

勇人・伍金は作業を再開する事にした。

(この島で一体何が起きたんだ?)

疑問に思いながらも、作業を続ける勇人だった。

 

 

 龍神島でも、祭りの準備が進められていた。俊・白陽は礼拝場作りに参加していた。俊は言った。

「すごいねー。何か色々凝って」

「そりゃそうだろ。ここでは最大級の祭りだからな」

白陽は作業しながら言った。

「そう言えば、勇人君達は大丈夫かな?」

俊は心配そうな顔をしながら言った。それを見た白陽は言った。

「まぁ華楠が着いてたし、溺れる事はないだろ」

「華楠ちゃんは水を操れるのかい?」

「あぁ」

それを聞いて安心した俊は、作業を再開した。

 

 

 一行が龍雹島にやって来てから、三日が経った。いよいよ祭りが始まった。町の人達全員が礼拝場に集まっていた。勇人は言った。

「人多いなぁー」

伍金が言った。

「まっ、勇人意外は妖怪だがな」

「あっ、そうだった」

伍金達と行動を共にしている為か、人間である自分が妖怪と行動している事は全く気になってい無かった。伍金は言った。

「にしても、何で俺達も祭りに参加するんだ?」

勇人は少し考えてから言った。

「う~ん・・・この祭りが、宝玉を修復するヒントになるような気がするんだ」

伍金は勇人の何時にない真剣な眼差しに、これ以上は何も言わない事にした。

(勇人は、俺が守る!)

伍金は決意を新たにした時だった。町全体に鐘が鳴り響いた。礼拝場には、釧濫が居る事に気が付いた。勇人は言った。

「何で釧濫さんが居るんだ!?」

火蔭は言った。

「言って無かったか?釧濫さんは、この龍雹島の頭領だ」

「・・・・・えぇぇぇぇ!?」

「ばか!静かにしろ!!」

火蔭は慌てて、勇人の口を塞いだ。

「すんません」

礼拝場に集まった人々は青龍様を拝み、釧濫を先頭に歩き出した。最初の祭り、洗礼式(せんれいしき)の始まりだ。

 

 

 釧濫率いる一行は、ある滝の前に止まった。高い所から落ちているため、音と水飛沫(みずしぶき)はとにかくすごい。すると、なぜか男だけが、滝の中に入り始めた。勇人は言った。

「ちょっと待った。俺聞いて無いんだけど」

洗礼式とは、龍雹島の神として祭られている青龍を拝み、お清めをする為に、川を進んで行くのだ。女性はそのまま川を進んで行くが、百年以上生きた男性は、川の途中にある大きな滝の中を進んで、奥の洞窟に行くのが仕来りとなっている。最後に龍雹島の神木、『龍(りゅう)神木(しんき)』の洞窟を通れば、式は終了となる。

火蔭はこの祭りの経験者だが、あえて勇人達には説明していなかった。火蔭はニヤリと笑って言った。

「じゃ、俺は華楠と一緒にあっち行くわ。行くぞ華楠」

「はいです」

火蔭は華楠と手を繋ぎ、女性達が歩く川の方へ行った。華楠を一人で行かせるのは、危ないので火蔭も同行するのだそうだ。勇人は言った。

「てか、俺人間なんですけど!?」

伍金はチッと舌打ちして言った。

「あいつ絶対オレ達の反応を見て、楽しんでやがる」

勇人は外見上、伍金と同じくらいの年齢に見えるので、渋々伍金と滝に向かった。二人が滝の手前に行くと、

「おら!」

後ろにいた町の人に突然押され、二人はそのまま滝の中に入って行った。というより強制的に入れられた。

 

 

 滝を通ると洞窟があった。天井の隙間から、外の光が入って来ている為、洞窟の中は明るかった。勇人・伍金は洞窟の中に居た。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

二人は突然入れられた為、水圧を頭からまともに受けてしまっていた。呼吸を整えるのに、時間が掛かっていた。二人を押した町の人は言った。

「大げさだな~。こんなんでへばってると、この先やってけねーぞ」

「誰のせいだ!!」

息がピッタリと合った二人だった。二人は、先に入った人の後に付いて行った。洞窟の中をきょろきょろと見ていた勇人は、天井に書かれた文字を発見した。勇人は言った。

「なぁー伍金。あれは何なんだ?」

「どれどれ・・・」

伍金は天井を見た。文字が書かれているのは分かるが、全く字が読めなかった。伍金は言った。

「・・・・・何じゃこりゃ?全然読めねー。てか何語だよこれ」

伍金はう~んと首を傾(かし)げていた。勇人はじーと天井に書かれた、文字を見詰めていた。少し経ってから勇人は言った。

「・・・・・俺、読めるんだけど・・・・・・」

伍金は目を丸くした。これが棚田家に与えられた、力が関係しているのだろうか?伍金は言った。

「マジか!?何て書いてあるんだ?」

勇人は消えかかっていた文字を、ゆっくり読み始めた。

我・・ここに来たる・・・我はここの者を・・・守り続けたい・・・・この島と共に・・・・・て書いてある」

「すげー」

伍金は言った。勇人は最初の手がかりを見つけたのだった。

 

 

 龍神島でも、祭りが行われていた。蓮蘭の話によると、この島はもともと山だったらしい。『龍神木』と呼ばれる木が今でもこの島に残っている事から、龍神島と呼ばれるようになったらしい。武人は言った。

「ここは元々山だったんだ」

三年前までは、龍雹島の山の一つだった。だが大災害によって龍雹島は、一夜の内に海に沈んでしまった。今では、三つの山の頂上部分が、僅かに水面から出ている状態になり、龍雹島から少し離れていた、小島が一つ残るだけとなった。俊は言った。

「山の頂上部分が、今は島になっている状態なんですね」

蓮蘭は少し悲しい顔で言った。

「そういう事だ」

一行は川を進みながら、龍神木を目指していた。

 

 

 龍雹島では、滝の洞窟を抜けた勇人・伍金は、川を進んでいた。何処まで続いているんだ?と言いたくなるほど、長く続いていた。二人は慣れていない為、体力の限界が近くなっていた。

「おーい。頑張れー。もう少しだぞー」

二人は町の人々に応援されていた。勇人は切れ切れに言った。

「おい。伍金・・・何か・・・むかつかないか?・・・」

伍金も切れ切れに答えた。

「本・・・当・・・だな!」

二人が苛(いら)つくのも無理は無かった。勇人・伍金が進んでいる川は右側を流れ、火蔭・華楠が進んでいる川は左側を流れていた。火蔭の進んでいる川は、比較的に進みやすい為、余裕で進んでいた。火蔭は右側の川を進んでいる勇人・伍金を見つけてから、時々二人に振り向いて、余裕な顔を見せていた。勇人・伍金はイライラしながらも、進んでいった。暫くすると、勇人は前方に何かを発見した。勇人は目を輝かせながら言った。

「おっ!伍金!あれじゃないか!龍神木!」

「きっとそうだぜ!勇人!」

さっきの疲れは何処へやら。二人は火蔭の方を向いてニヤリと笑い、猛ダッシュで走り出した。

バシャバシャバシャ――!!

二人は最後の力を振り絞り、気づけば豆粒サイズになるくらい、遠くに行っていた。火蔭は慌てて言った。

「負けてたまるもんか!華楠!行くぞ!」

「はっ、はいです!」

火蔭は華楠と共に、二人を追いかけた。

 

 

勇人・伍金は体力を使い果たし、龍神木付近の河原で仰向けになっていた。二人はギリギリ火蔭が到着する前に、何とか龍神木に辿り着いた。火蔭は言った。

「ちっ。先を越されちまったぜ」

先頭を歩いていた釧濫は、龍神木近辺で競争を見物していた。

「ハハハ!!若いっていいな!!」

釧濫は暫く大爆笑していた。その後、落ち着いた釧濫は言った。

「さてと。全員揃ったとこで、行こうぜ!龍神木に!」

勇人一行は龍神木に入って行った。

 

 

 龍神島では、町の人々は最後に龍神木の中に入っていた。二本の木が絡み合い、真ん中は空洞になった正に自然の洞窟だ。俊一行もその中に入って行った。俊は言った。

「何だか不思議な感じですね」

舜は言った。

「だろ?最後に龍神木の中に入ることで、俺達は青龍様にお清めされるってわけっすよ!」

不思議な力を感じながら歩いて行くと、武人が何か薄いが人影を発見した。俊は武人がある一点を凝視している事に、気が付いた。俊は言った。

「どうしたの?武人君?」

「俊兄、あそこ・・・」

俊は武人が指を指す方向を見た。そこには龍神木に奉納された綺麗な水鏡が置かれていた。そこに映し出された人物に、俊も驚いた。俊は言った。

「勇人君!?」

 

 

「うん?」

勇人は声のした方に振り向いた。勇人は言った。

「何か誰かに呼ばれたような・・・・・」

伍金は辺りを見渡した。だがそこには誰も居なかった。

「誰もいねぇーぞ」

勇人は伍金に「先に行ってくれ」と言い、列を抜けた。勇人は声の主を探した。

(あの声は、俊兄の声だったような・・・・・)

勇人が洞窟の中をウロウロしていると、龍神木に置かれていた水鏡を発見した。鏡を覗いてみると、同じように鏡を覗いていた俊・武人が映し出されていた。水鏡を通して、お互いの世界が、映し出されているようだ。勇人は水鏡に向かって言った。

「俊兄・武人。俺の声聞こえるか?」

二人は少々聞き取りづらかったが、話すには十分だった為、頷いた。勇人は早口で言った。

「いいか、俺の言う事をよく聞いてくれ!俺達はどうやら三年前沈んだ、龍雹島にいるみたいなんだ」

二人は目を丸くした。武人は言った。

「お兄ちゃんは、どうしてここに居るの?」

勇人は龍雹島で今、祭りが行われている事を話し、ちょうど龍神木を歩いている事を話した。勇人は、天井に書かれた物について話した。

「この祭りの途中で、この島の創設者の青龍の記述を発見した。内容は、青龍がこの島と島の住人達を、大切に思っていた事だ!」

俊は言った。

「龍雹島と島の住人をキーワードに、探せばいいんだね!」

勇人は言った。

「あぁ!俊兄、武人!そっちの方も頼んだ!俺は、次の場所に向かう!」

勇人が話し終わると同時に、俊・武人の姿は水鏡に映し出されなくなった。

 

 

 俊一行は長い龍神木の洞窟を抜けた。俊は洞窟を抜けて直ぐに、蓮蘭の所に向かって言った。

「蓮蘭さん?」

「何だ?」

「この祭りは、三年前は各地を歩いていたんですか?」

蓮蘭は驚きながらも、冷静に言った。

「そうだ。なぜそれを知っているんだ?」

俊は真剣な眼差しで言った。

「事情はまた後でお話しします。それで、この龍神島から次は何処に向かうんですか?」

蓮蘭は少し間を置いてから言った。

「龍願島(りゅうがんとう)だ」

 

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