under the world 0話・1話 紫桜寮

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椏彈(あだん)

 

0話

「……なんで、こうなった?」

校舎と思しき瓦礫の山、倒壊に巻き込まれたであろう教師と生徒たちの山、砂埃により視界が悪い。こんな悲惨な状況でも破壊犯と思われる生徒たちは鎮まる気配無く、破壊音と爆音が未だに鳴り響く。

❘今日寝坊してよかったー。

新学期初日であるのに盛大な寝坊をかましたオウカは、普段より遅れて学校に到着した。そのため、今回の倒壊に巻き込まれずに済んだのであった。

ドラゴン族が通う当校では、生徒の喧嘩で校舎や校庭など一部吹っ飛ぶ事案は、年に何度か必ず発生するのが通例となっていた。そのため、校舎は世界で最も屈強な耐ドラゴン製の校舎を数年前に改装したのだが、本日発生したドラゴン同士の喧嘩には耐えられなかったようだ。

「……あ、もしもし?母さん?校舎吹っ飛んだから、家に帰っていい?」

こうして新二年生オウカの学校生活は、全校舎倒壊で幕を開けるのであった。

 

 

1話 紫桜寮

「校舎が吹っ飛んだ哀れな生徒が明日入寮する。準備をしておくように」

「……はい」

寮母スモークは消えりそうな声で返し、黒電話の受話器を置弱々しく置く。強烈な眩暈にふらつきながら寮の縁側へと移動し、置かれている座布団へと座り込む。

ス「……上はいったい何を考えているんだ?」

煙草に火をつけ、何処か遠い目で庭を見つめる。生徒たちが出払っているこの時間に寮の縁側で一服。至福の一時だというのに、先程の学園長の言葉が頭で何度も過り、落ち着くどころか地を這うかの如く最悪を極める。

紫桜寮(しざくらりょう)を有するドンガルダ高校は全種族を受け入れる唯一の高校のため、少なからず問題児が来校しやすい傾向にある。が、件の入寮生は転入の経緯を聞く限り問題児の可能性が果てしなく高い。この世界では珍しくなって久しいただの人間で且つ右腕を失っているオッサンでは、ことが起きた場合対処不能になるのは目に見えている。

ス「こうなったら、全力で寮母室にひきこもって籠城しよう。うん。それが一番安全で快適生活への近道」

ドゴーン‼破壊音と共に寮を囲む石垣と思しき石が一つ、スモークの目の前に落下。落下地に大穴が誕生し、他にも数個の石が降り注ぎ、庭はほぼ壊滅状態となる。

オ「いたたた…可笑しいな。なんでブレーキが効かなかったんだ?」

石垣を盛大に破壊、大穴を作った当の本人はかすり傷一つなく、ドラゴン特有の硬化体質が功を奏したと言える。石垣に共に突っ込んだ自転車も耐ドラゴン製「超耐衝撃自転車」なので故障しなかった。オウカは服に付いた土埃を払っていると、縁側に座る男性を発見する。

オ「すみません!ここは何処ですか?」

ス「……」

手を目の前で振ってみるも、反応は一向に返ってこない。

オ「…誰かー!この人、目を開けた状態で気絶してるんですけどー!」

この事故をきっかけに、スモークは数日ほど巨大隕石が降り注ぐ悪夢にうなされることとなる。

 

縁側そばの共同大広間「紫桜ノ間(しざくらのま)」。

仁王と化した頭部がモニター画面の男子生徒モニタとオウカは、向かい合うように正座をしていた。

モ「で、待つのが面倒くさくなって、自転車でウロウロしているとブレーキが故障。加速した状態で止まれず寮の石垣を自転車で破壊。石材がスモークさんの目の前に落下してそのまま気絶。どうしようかと悩んでいたところにボクが来た、ということだよね?」

声帯を持たないモニタはモニター画面に会話や表情が表示される。オウカが起こしたであろう出来事を推測し、モニター画面に高速で淡々と文字で表示される。

オ「さすがモニタ!見事な推理だ!」

モ「何が見事な推理だ❘❘❘❘❘❘❘‼」

文字が大きな太文字へと変換され、モニターから大音量の警告音が寮全体に響き渡る。

オ「お、落ち着けモニタ。このままだとフリーズ起こすぞ」

モ「うるさい‼大体誰のせいだと思ってるんだ‼君はいつも勝手な行、動、を…」

ピー‼警告音の種類が変わり、注意マークが画面一面に表示される。警告音が停止すると、まるで電源が落ちた機械のように正座した状態で全く動かなくなる。

オ「……暫く動けないぞ。これ」

フリーズ。パソコンなどのデジタル機器と人間が合わさった種族を「デジラ」と呼ぶ。デジタル機器の能力を使用出来ると同時に、デジタル機器特有の病気を発症する。フリーズ現象はパソコンの「フリーズ」と同じで、デジラ本人に内蔵されているデジタル機器が停止し、動けなくなる状態を指す。症状の程度によるが、大抵は数分あるいは数時間で回復し、元の状態に戻ることが多い。

モニタは感情的になると体温が急上昇し、頭部のモニターが熱を感知し警告音を鳴らす。無視を続けると自動停止機能が働き、フリーズ状態になる。モニター破損を防ぐため、座布団を畳んで枕にし、少々力尽くだがモニタを横に寝かせる。出会った際に不良にモニターを破壊のうえ放置され、緊急入院から一週間ほど生死を彷徨ったことがあった。

?「あれ?モニタがフリーズ起こすなんて珍しい」

オウカが心配そうにモニタを見つめていると、ヘッドホンを外しながら男子生徒が一人大広間に入ってきた。

?「おや?君はもしかしてオウカ君?」

オ「俺を知ってるってことは、モニタが言ってたサウンドか?」

サ「正解。紫桜寮デジラ仲間のサウンドだよ」

サウンドはオウカの横に座り、オウカの尻尾を観察する。サウンドはモニタと違い見た目では普通の人間そのもので、モニタと同じ種族だとは分からない。

サ「ところで、ハンドルネームはなんて言うの?」

オ「うん?ハンドルネーム?」

サ「え?まさか、本名で転入したの?」

全種族が通うドンガルダ高校では様々な能力を持っている生徒がおり、本名から相手を分析し攻撃する能力者がいる可能性がある。自衛のためハンドルネームで入学または転入するのがここの常識であり、学校側も推奨している。

モニタはサウンドに絶対本名を明かさないと約束をした上で、オウカというドラゴンとネコのアノイが転入すると聞いていた。が、オウカ当人が本名で堂々と転入するとは思ってもいなかった。

オ「そう言えば、モニタにハンドルネーム考えてこい!て言われてたような、ないような?」

サ「まだ手続き間に合うと思うから、学校側に連絡しようか?」

オ「……いや、そのままでいい。俺は何処に行ってもオウカだ。ここにいてもそれは変わらないし、ハンドルネームで誤魔化すのは俺らしくない。まぁ、友人としてあだ名付けられるのは歓迎だけどな(笑)」

豪快に笑い飛ばすオウカにサウンドは釣られて笑い出す。

サ「そうだね(笑)君は何処に行ってもオウカだね(笑)これからもよろしくね!」

オ「おう!よろしくな!」

サ「あ、のど乾かない?お茶淹れてくるよ」

オ「サンキュー」

サウンドは台所へと姿を消した。

オ「…何か、あったのかな」

❘一瞬、サウンドの表情が少し曇ったような…

彼にとって本名もとい自身に関して何かあったのかもしれない。サウンドに過去のことを聞くのは控えよう、とオウカは心に決め、フリーズが解けぬモニタの横で寝転ぶ。

オ「ここに来てよかったよモニタ。なんだか、いろいろ楽しめそうだ……」

これからの学校生活に期待感に胸躍らせながら、オウカは静かに眠りについた。

 

1話 紫桜寮 挿絵

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